古今著聞集

【現代語訳】安養の尼の小袖/1分で分かるあらすじ

このページでは古今著聞集【安養の尼の小袖】の現代語訳(口語訳)を載せていますが、学校で習う現代語訳と異なる場合がありますので、参考程度に見てください。

『安養の尼の小袖』が1分で分かるあらすじ

横川の恵心僧都の妹である安養の尼のもとに強盗が入り、家財を奪って逃げたが、小袖を一つ落としていった。それを妹尼が見つけ、紙衾をまとった尼上のもとに届けるが、尼上は「この小袖を盗人は自分のものだと思っているでしょう。持ち主が納得していないのに着るわけにはいかない。」と述べ、すぐさま盗人の後を追わせて、小袖を返してしまった。盗人はしばらく思索した後、奪った品物をすべて返して立ち去った。

もっと分かりやすいあらすじ

安養の尼
安養の尼
みなさん、はじめまして。わたしは、横川よかわ恵心僧都えしんそうずの妹です。安養寺あんようじの尼なんです。

この時代にはセコムがなかったので、安養寺の尼さんのところに強盗が入り、家にあるものを全て奪って出て行ってしまいました。

安養の尼
安養の尼
あらまぁ。これでも着ておきましょうか。

と、安養の尼さんは紙衾かみぶすま(外側を紙で作り、中にわらを入れた粗末な夜具)を被って座っていました。そこに、

小尼公
小尼公
お姉さーん!盗人ぬすびとさんたちが、小袖を1つ落としてたわ!これを着たらどうかしら?あ、わたしは安養の尼の妹の小尼公です。
室町時代まで小袖は、着物の下に着る下着のようなものでした。
安養の尼
安養の尼
あら、小袖を落として行ったのね…。でも、それを着るわけにはいかないわ。だって、この小袖を盗人さんたちは自分の物だと思っているでしょう?持ち主が納得していないから、着れないわ…。返してきてちょうだい。

そう言って、妹の小尼公に盗人たちの後を追わせて、小袖を返しに行かせました。

盗人たち
盗人たち
…!!!!!
都合の悪いところに盗みに入ってしまった…

と言って、奪ったものを全て返して帰りました。




原文と現代語訳(口語訳)

横川よかわ恵心僧都えしんそうづの妹、安養の尼のもとに、強盗入りにけり。

横川の恵心僧都の妹である、安養の尼のところに、強盗が入った。

物どもみな取りて出でにければ、尼上は、紙衾かみぶすまといふものばかり負ひ着てゐられたりけるに、

(盗人は家に)ある物を全て奪って出ていったので、尼上は、紙衾というものだけひっかけて着て座っていらっしゃったところ、

姉なる尼のもとに、小尼公とてありけるが、走り参りて見ければ、小袖を一つ取り落としたりけるを取りて、

姉である尼のもとに、小尼公という名であった尼が、走り参って見ると、小袖を一つ落としてあったのを手にとって、

「これを盗人取り落として侍りけり。奉れ。」とて、持ちて来たりければ、

「これを盗人が奪いそこねて落としておりました。お召下さい。」と言って、持ってきたので、

尼上の言はれけるは、「これも取りて後は、我が物とこそ思ひつらめ。主の心ゆかざらむ物をば、いかが着ける。

尼上がおっしゃるには、「これも奪った後は、(盗人は)自分の物だときっと思っているだろう。持ち主が納得していない物を、着ているか(着ていられない)。」

盗人はいまだ遠くはよも行かじ。とくとく持ちておはしまして、取らせ給へ。」とありければ、

盗人はまだ遠くへはまさか行っていないだろう。早く持っていらっしゃって、取らせなさいませ。」と言ったので、

門の方へ走り出でて、「やや。」と呼び返して、「これを落とされにけり。たしかに奉らむ。」と言ひければ、

(小尼公は)門の方へ走っていって、「もしもし。」と呼び戻して、「これを落としなさったでしょう。確かに差し上げますからね。」と言ったので、

盗人ども立ち止まりて、しばし案じたる気色にて、「あしく参りにけり。」とて、

盗人たちは立ち止まって、しばらく思案した様子で、「都合の悪いところに盗みに入り申し上げてしまったなぁ。」と言って、

取りたりける物どもをも、さながら返し置きて帰りにけりとなむ。

奪った品々を、すっかり全部返して置いて帰ってしまったということだ。